蹴りたい背中

「『蛇にピアス』の感想文書いてましたけど、りさたんは既にほうぼうで語りつくされてるからあえて書かなかったんですか?」と聞かれましたが(オフレポ)、別にそういうスタンスではなく、ただ買ったけど読んでなかっただけなので、読みました。

本人の萌え要素だけではなく、確かに力のある作品。優れた小説は書き出しが印象的なものが多いが、本作もその例外でなく、印象的なフレーズで始まり、畳み掛けるように言葉がつむがれていく。冒頭の歯切れの良さは、思わず2chにガイドラインが立つくらいだ。

同時受賞者の金原作品が凡庸なだけに、読み比べるとその違いが浮き彫りになる。(本来比べるものではないが) 蛇にピアスは、題材がエキセントリックながら表現は凡庸に堕している。蹴りたい背中は、人も死ななければSEXもしないのに、刺激的である。例えば、正直言って、舌にピアスを開けるシーンよりも、ビーサンで走って足の皮が剥けたシーンの方が「痛そう」なのだ。

だがネット上でも売り上げでも、『蛇〜』より本作の評価が高いのはそれだけではないだろう。孤独、疎外、同化……いわゆる「集団の問題」は、とりわけ現代社会に暮らす我々にとって決して他人事ではない。誰しも同じような感覚を抱けるのであり、それはつまり誰しもがにな川でありハツでもあると言うことだ。僕にも、休み時間の度に、机の上でひとり目覚まし時計を分解している時期があった。(2月19日)